あいつが好きな、私の匂い

「理沙ねえが死にたくなるくらい好きな男より、頼り甲斐ないしまだ学生でガキだし、全然駄目なのかもしれないけど、俺はずっと理沙ねえのことが」
「私のことが、なに……?」


食いついてしまった私に、大悟がにっといたずらっぽく笑う。


「聞きたい?キスしてくれたら続きも言うけど」



やっぱこいつ計算なの?



思いっきり怖い顔作って睨んでやると、初めは「こえー」と笑っていた顔がだんだん切なそうに歪んでいく。


「いいよ。もとより俺長期戦覚悟だから。片思いが結構つらいってのは俺も知ってるし、泣きたいくらい辛くなったらいつでも呼べよ」


そういってまた頭を撫でてくる。


「理沙ねえ……理沙ちゃんは、一生懸命だから、仕事も恋愛もひとより疲れちゃうんだろ?いつでもどこでも電話してこいよ。慰めに来てやるから」


よしよしと殊更やさしく触れてくる。


やさしい手。年下のくせに。馬鹿なくせに。むかつく。どんだけひとの心をかき乱せば気が済むんだ。


そんな尖った気持ちが、大きな手で撫でられるたびに丸くなっていく。



「あー。でもやっぱやばいかも」
「……何が」
「この匂い。ちょっと俺、いろんな意味でつらくなってきた」


しばらく私の頭を撫で続けていると、大悟が弱ったように言い出した。その顔がおかしくて吹き出しそうになる。


「--------私はもう、辛くなくなっちゃった」


え?と間抜けに聞き返してきた大悟を間近で見て。あとちょっとの間だけ、優位を楽しませてもらおうかと考える。今日のミネストローネの手間賃がわりに。

とりあえず「もっと慰めてよ」と傲慢に言っていっぱい頭を撫でさせる。と耐え切れないとでもいうように大悟が抱きついてきた。

大悟が匂いを確かめるようにまた私の髪に鼻先を埋めてきたから、そこでようやく私は大悟にその一言を言うことができた。


「あんたが好きな女は、あんたのことが好きみたいだよ」と。



うれしさのあまりなのかだらしのない顔で大悟が笑う。子供っぽくて残念で、でもとびきりわたしの好きな顔だった。







《end》



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