蜜は甘いとは限らない。【完】
だから、俺は逆らえない代わりに軽くからかってやると上目遣いで見られた。
いや、きっと睨んだつもりなんだろうけど、俺との身長差が有りすぎて、睨んでいないように見えるんだろうな。
ワザと驚いた顔を作ってから笑ってやった。
そうすれば、不機嫌そうに顔を歪めて睨むのをやめた。
と思った次にはもうこの部屋を出ようとしていて。
…なんだ、ここを出てどこへ行くつもりだ?
急に不安になった俺は焦って舞弥に声を掛ける。
「は?寝るのよ」
襖に手をかけた不自然な状態で振り返り、返ってきた返事に、ホッとため息をつく。
帰るのかと、思った。
聞けばドレスは動きにくいかららしい。
それくらい、ちゃんと伝えてから部屋を出て行けよ。
勝手に焦った自分が恥ずかしい。
「それじゃあ、おやすみ」
「……あぁ」
だからか、おやすみと言った舞弥の顔を見れなかった。
スス、と小さく鳴った音に襖が閉まったことが分かる。
そこでやっとつっかえていたものを取るように大きく息を吐き出す。
調子、狂う。
ベッドに寝転がり枕に顔を埋めれば何故かさっきまで舞弥と引っ付いていた唇が熱く感じた。