蜜は甘いとは限らない。【完】
「舞弥のことが、楽しみだなぁ?」
「…さっさと帰れ」
はは、じゃあな。
話すために開いていたスモークがかった窓が閉まり、車が動き始める。
……くそ、強くなりたくて、ここまで。
「…チッ」
ガンッ
苛立ちを壁にぶつければ、壁には傷1つ付かないで、俺の拳には2つほど擦り傷が出来た。
…俺は壁を相手にしてるようなものか。
手を出せばこちら側だけが怪我をする。
(…帰ろう)
少し血が滲んだ手を握り締めば丸く赤が浮いた。
それをなんとなく舌ですくい取れば、口内に鉄の味が広がる。
「…不味、」
(まぁ、当たり前か)
その味を消すように口元を拭って、知らない間に日が暮れそうになっている街を歩いて帰った。