蜜は甘いとは限らない。【完】
「ほら、降りて、いくわよ!」
「そんなに急がなくても、お店は逃げませんよ」
「あたしがいいと思ったものが売れちゃってたらどうするの!」
「その場合は里愛さんは違うものを買うでしょう?」
「いいから、早く!」
「(言い返す言葉が無くなったか)」
雨の当たらない所に止めてもらったからゆっくり降りるあたしの腕を、グイグイと引っ張り降ろす里愛さんはあたしより年上には見えない。
渋々降りたあたしの腕を引っ張ったままの里愛さんは、早歩きで前を歩いて行く。
チッ、高いヒール履いて来るんじゃなかった。
ムートンブーツを履いてきている里愛さんからは何の物音も聞こえないけれど、あたしの靴からはカツカツと甲高い音が鳴る。
はっきり言って、五月蝿い。
「ねぇ、先に服見ていい?」
「好きにしてください」
「えー、冷たいー」
これからはドライアイスって呼んでもいい?
きっと眉を寄せていただろうあたしをもう見もせず、服を見たまま話す。
…てか、絶対そんな名前で呼ばせない。
この人は面白がって寺島や葵の前で呼びそうだから、その名前で。