蜜は甘いとは限らない。【完】
不意に痛んだ自分の胸は、何を思うのだろう。
もう、なにも考えたくないあたしは心に蓋をする。
「お嬢様、少しいいですか?」
適当に椅子に座って外の庭を眺めていれば、ドアをノックする音と共に山中の声が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
その声に適当に返事をすれば静かにドアが開き、さっきまでの黒服と違い白服に着替えた山中が入ってきた。
「何?」
「ケータイを、預りに参りました」
「は、ケータイ?
なんでよ」
「葵様や、寺島様のお嬢様に連絡されては困ると、旦那様からのお言葉ですので」
「………はいはい」
渡せばいいんでしょ、渡せば。
早く出せと言わんばかりに差し出された手のひらの上に、買い物の時に持って行っていた鞄からケータイを出す。
無いと思ったら、ここにもう運ばれてたのね。