蜜は甘いとは限らない。【完】
何言ってんだ、こいつ。
みたいな顔をする絢梧さん。
いや、だからね?
「貴方も、政略結婚でしょ?」
「...お前もなのか」
「えぇ。
だからしたくないのよ」
「はっ
そのわりにはえらく着飾っててきてるのな」
「これは無理矢理よ」
朱がいいと言ったのは、あたしだけど。
ここまでしてと言ったのは、どうせあの人でしょう。
「なぁ、」
「?何」
いつまでも締め付けたままの帯は時間が経っても苦しくて、そのせいかすごく話しにくい。
「お前のこと、なんて呼べばいい?」
「え、名前?なんで」
「...どうせ、俺らはどれだけ拒否をしあっても結婚させられるんだろ?
なら、名前くらい呼び合わないと可笑しいだろ」
「...確かに」
まぁあたしは勝手に絢梧さん、と呼んでるけど。
そう言われてみれば、そうかもしれない。
今、あたしの目の前に居るのは将来ずっとあたしの隣に居てくれる人であって...。
「...あたしのことは何とでも」
「分かった。
俺のこともなんとでも呼んでくれればいい」
「ありがとう」
「何も、感謝されるようなことはしてねえよ」
そう言って初めて笑顔を見せてくれた絢梧さんの顔は、なぜか直ぐに頭の中から消えていった。