蜜は甘いとは限らない。【完】
車に乗りこんだ2人を見送るために、止まったまま動かない車の横に嵐川さんと並び、偽笑を浮かべる。
「また、たくさんお話してくださいね。
絢梧さん」
「...はい、こちらこそ」
スルスルと開いた窓から顔を覗かせた絢梧さんに、社交辞令同然の言葉を投げかけ笑えば、そんなあたしの様子に気付いた絢梧さんもあたしに笑いかけてくれた。
...嵐川さんと白神さんの前でもこういう会話をしているところを見せないと、駄目だろうし。
「...また、メールするから」
「うん...」
なんて思っていただけなのに、最後に絢梧さんに腕を引っ張られ、顔を寄せられたかと思えば耳元で呟かれた。
っ、わざわざ耳元で言わなくても、何も言わずにメールくらいしてくればいいのに。
それに、この角度だとあたし達がキスしているように見える。
「...ほら、車出すから離れなさい。絢梧」
「...。」
出せ。
その言葉と同時に動き出した車を呆然と見送る。
なんだったのだろう。
結局よく、分からない人だった。
年も、聞けなかったし。
ふと視線を感じて振り返れば、不機嫌そうな我が父があたしの方を見ていた。
え、なぜ。