蜜は甘いとは限らない。【完】
そしてついに止まってしまったタクシーから降りる。
大体これくらいだろうと出していたお金より千円安くて、その分を引いたお金を出せばおつりは無かった。
バタン。
少し強めにドアを閉めれば、一瞬のうちにタクシーは動き出した。
...あたしタクシーばかり乗ってるし、車買おうかしら。
免許だけ持っていても、意味は無いしね。
短大を卒業して直ぐに取った免許証は、昔はあんなにも輝きを放ったものだったのに、今では何の価値も無いものになってしまっている。
若さが、見栄を張っただけね。
若さって怖い。
「...ジジイ達みたくなっちゃった...」
あたしと絢梧さんを見て若いと言った、思い出したくも無い顔が頭に浮かぶ。
あたしたちは別に好き合って見つめあったわけではないのに。
絢梧さん、最後のほうは笑顔を見せてくれてたから警戒心くらいは解いてくれたのだと、信じたい。
(あれ、どんな風に笑ってたっけ?)
笑顔、でふと思い出した絢梧さんの顔。
あれ、どんな顔だった?
どんな風に、話す人だった?
寺島の笑顔は、本当に幸せそうな笑みだった。
「って、なんで寺島?」