蜜は甘いとは限らない。【完】




冷えきった体をベッドに潜り込んで温めようと思ったけど、いつも以上に濃く施された自分の化粧のことを思い出し、ベッドに向かっていた足を脱衣場に向かわせる。



「寒い、寒い......っ」



暖房の付いているはずも無い脱衣場は思っていたより冷えていて、身に着けていたものを全て脱げば鳥肌が立った。


それからは早くて、パッとメイクを落とせば体が温まるまで温度を設定より数℃上げ、シャワーを浴びた。



そうすればだんだん赤くなっていく自分の肌を見て、側に置いてあるバスタオルを体に巻いて外に出る。


出て直ぐにある鏡に自分の体が映って、思った。



(...自分の体なのに、自分のしたいことも出来ないこの体は、何なんだろう)



腕を上げようと思えば上げることが出来て、歩こうと思えば前に出る足。


なのに、将来は自分の思うようには歩けない。



「...なんて残酷」



なんて、意味の無い世界だろう。

大人になりたいと駄々をこねていた昔の自分に言ってやりたい。



“大人になっても、いいことは無いの”だと。

そんなこと、小さい子供に言ってもなんの意味も持たないのだろうけど。


その日、あたしはバスタオルを巻いただけの格好で布団にもぐり、眠った。



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