蜜は甘いとは限らない。【完】
「ふーん…」
答えたあたしに何か考えているかのように顎に手をあてる。
...聞いといて、なによその態度は。
呆れて溜め息を付けば、ソファに座っていた葵が立ち上がった。
「葵?」
「...今日はもう帰る。
ケータイには登録してあるから、来て欲しいときとか連絡して。
絢、帰るぞ」
「へいへーい」
立ち上がった葵を追いかけようとすれば、追いかけるなと言わんばかりにあたしを尻目に見てから絢梧と一緒に部屋を出ていった。
...なにか、葵の気に触ることをしたと言えば、婚約のことだ。
葵があの人に何も言わなければいいのだけれど...。
そう思ったらどうも気持ちが落ち着かなくて、初めてまともに使うケータイで葵にメールを打つ。
[葵、婚約のことを絶対にあの人に言わないで。お願い]
前とどうやら機種が同じらしいスマホのおかげで素早く言いたいことが打て、送信する。
...このメールを早く読んでくれることを祈るわ。
ぎゅっと“送信完了”の文字を映すスマホを握り締め、祈るように目を瞑った。