蜜は甘いとは限らない。【完】
なんでいつもこうなるんだろう…
さっさと前に歩きだした俺の後ろでブツブツと文句を言うこいつは、なんだかんだ言って俺から離れようとしたことは一度もない。
とんでもない、変わり者だ。
「…俺家に帰るな」
「おー」
「じゃ」
「じゃあなー」
そして気まぐれなこいつは不思議なことに、どれだけ殴ってもそのことを忘れるのか数秒後にはへらっとした顔で俺と話す。
全く分からない奴だ。
そんな分からない奴と別れて、姉貴が帰って来なくなってしまったピリピリとしたままの家に帰ってきた。
「…ただいま」
「葵、」
「なに、寺島...さん」
「お前、本当に舞弥の居場所。知らないのか」
そして以前のように、相変わらずの寺島からの質問攻め。
いつも帰ってくれば玄関には寺島がいて、しつこい位に詰め寄ってくる。
その時は姉貴の居場所を知らなかった俺は知らない、とだけ言って逃げていたけど。
だけど今日、今さっきまでは知らなかった姉貴の居場所を知った俺は、にんまり笑みを浮かべてみる。
「...お前、知ってるんだろ、やっぱり」
「さぁ?」
「言えやっ!!」
ダンっ
あの時と違って3日しか経ってないはずなのに、なぜこうも苛立っているのだろう。
ドアに思い切りぶつけられた背中は、前に殴られた頬よりも痛んだ気がした。
「…離せよ」