蜜は甘いとは限らない。【完】
「は?」
声のする方に目を向ければ、無残にも原型を保たないほどにぶっ壊れたドア。
そこから出てくるのは無表情の寺島。
ぐっと握られた拳を見て、起き上がろうと体制を立て直そうとすれば、体に力が入らなくて少し浮いた体はまた地面に逆戻り。
そんな俺にだんだん近付いてくる寺島に焦って、力を入れるために大きく息を吸おうとすれば、喉から変な音がするばかりで息が出来なかった。
「息が、出来ねぇか?」
「、」
ヒュッ、ヒュッと短く息を吸う俺の目の前にしゃがんだ寺島が言った。
っ、くそ。
「…お前、俺がなんであいつを探してるか、分かってるか?」
「...好きだから、じゃ、ないの...かよ」
「違ぇ」
「...。」
なんなんだよ、こいつは。
好きだから、俺のことも預かるって言ったんじゃないのか?
好きだから、あの姉貴と同じ会社で働いている男にもキレたんじゃないのか?
「あのな、」
きっと俺の今の顔は、可笑しいくらいに情けない顔になっているんだろう。
今度は優しげな顔をした寺島が俺の頭に手を乗せ、撫でる。
ふわふわと浮かせたり、沈ませたりする撫で方はたまにする姉貴の撫で方に似てて、少し涙が出そうになった。
「?」
だけど、それを誤魔化すように途中で言葉を止めた寺島を見上げる。
...早く、続き言えよ。
見上げて数分。
撫でる手を止めた寺島が小さく溜め息を付いてから、口を開けた。
「あのな、」