蜜は甘いとは限らない。【完】
そのあとも何故かと聞こうとしたけど、返ってくる言葉は決まって「旦那様のご命令ですから」だから、聞くのを止めた。
だって、聞いてるだけで腹が立つのだもの。
「はぁ、元いた家に、帰りたい」
なにもかもされると言っても、あたしの直ぐ側に居るわけでもないお手伝いさんには用意出来ないハーブティーを入れて、庭のテラスに出る。
程よく光が入っているし、冷たすぎる風も緩和されているから、心地いい。
温かいハーブティーが喉を通れば、体の芯から温もっていくような気がした。
(平和だ、な……)
仕事もしない。
家事もしない。
日中は庭の草木を眺めたり、庭で本を読んだり。
夜はひたすら本を読むか、直ぐに寝るようにしている。
知らない間に、すごく健康的な毎日を過ごしているような。
運動不足は、解消されていないけど。
家に居るばかりで動かないあたしにと渡されるのは、嵐川の会社の資料だけ。
読んだって、特に思うこともない。
ただ、最近経済状況が悪いせいもあり、嵐川が出している店数個が売上を上げていない。
むしろ、下がっているのだ。
……だから、こんなに急に婚約の話が出たのだろうな。
渡された資料はすべて、丸めて庭で燃やした。