蜜は甘いとは限らない。【完】
2件目は、葵と一緒に来たあの日。
[葵の、姉貴だったんだ?
俺葵の兄貴になるのかー(笑)]
3件目、これはどうも今日、ついさっきみたいだ。
[今からでも、婚約破棄してもいいんだよ?]
……1件目のは、返信しなかったから心配をかけたのだろうか。
2件目は、まあ、どうでもいいとして。
3件目。
絢梧は、あたしをそんな言葉で惑わして何がしたいのだろうか。
婚約破棄は“しない”。
とりあえず、返信だけでもしておこうか。
[あの日はありがとう、無事に帰れた。
それと婚約破棄はしないわ]
なんの、可愛気もないこのメールを読みなおして、顔文字を付けてみようか、なんて思ったり。
だけど、結局そのまま送信ボタンを押す。
この可愛気のないメールが、一番あたしらしいと思ったから。
送って直ぐ、返事が返ってきた。
[そっか。舞弥がいいのなら、いい。
だけど、無理だけはしないで。
葵も心配してた]
……初めは、なんてふざけた奴なんだろうって、思ってたのにな。
無愛想で、無表情で。
婚約者だと言われて連れて行かれたあたしを見ても、なんの興味を示さない絢梧に腹が立ったときもあったけど。
なんだかんだ、良い奴なんだ。
「…なんか、お別れみたい」
自分で考えだしたことが可笑しくて、笑いが零れた。
その日は夜まで資料を読み続けて、読み終わって直ぐ、気絶をするように眠りに落ちた。