蜜は甘いとは限らない。【完】
んー、メイクは薄めでいいとして、髪型か。
とりあえず髪が顔にかかるとダメだから、横を編み込んで留めて…。
上から順に準備を済ませ、スーツを着る。
ズボンは奥に仕舞われていて、出すのに少し苦労した。
「出来たわ」
「…あと1時間くらいですね。
急ぎましょう」
準備をし終えたあたしが階段を降りて行くと、階段の下で待っていた山中が腕時計を見て、言った。
え、あの準備に1時間もかかってたんだ。
思っていた以上に過ぎていた時間に耳を疑う。
「早くしてください。
遅れてしまいます」
「…分かってるってば」
早々と歩いて行く山中が立ち止まったままのあたしに振り返って言う。
仕方ないじゃない、驚いたのだから。
直ぐにまた前に向き直って歩く背中を追うようにして足を進めた。
「どうぞ」
外に出て長い庭を抜けた所の門に、白スーツのようなベンツが停まっていた。