蜜は甘いとは限らない。【完】
「あいつ等は手作りに飢えてんだよ。
ここにはそういう奴がいっぱい居るからな」
だから、俺も感謝はしてんだよ。
...珍しく、あたしにふわりと微笑んだ寺島の顔にときめいたのは内緒。
「...ほら、寺島も早く行ってきたら?
みんな待ってるわよ」
「でも、」
「「「若ー!!!!」」」
「ね?」
「...分かった。葵は?」
あ、すっかり忘れてた。
呆れた顔の寺島に失笑を零す。
「まぁもう向こうに居るんじゃない?」
「また適当な...。
お前それでもあいつの姉貴かよ?」
「失礼な、姉じゃなかったらあたしはここに居ないでしょ」
誰があの馬鹿の説教してると思ってんのよ。
あたしよ?
さっきまでと違いふんぞり返る寺島に青筋を立てる。
やっぱりこいつだけは好かない。
「ま、お前のまずい飯でも食いにいくわ」
「そんな奴は食わなくていい!」
「え、なに?ありがとう?
それほどでも」
「むっかつく!!!」
こいつの分の料理、あいつらの誰かが食べてくれないだろうか?!
...ありえないけど。
ひらひらと手を振りながら、いつまでも呼び声の止まない大広間に寺島は歩いて行った。
「...ほんと、大っ嫌いなんだから...」
その背中を見ていると、なぜかあたしはさっきの優しい笑顔を思い出していた。