蜜は甘いとは限らない。【完】
「葵、迷惑かけるんじゃないわよ?」
「...分かってる」
「...少しでも、そこで自分の考え、直してきな」
学校にもサボらずに行きなさいよ?
うん。
開いていた窓を閉めてもまだ話すこの男を見ていると、激しい胸焼けに襲われた。
...なんでこんなにイライラするんだよ、くそ。
「...出発させろ」
「はい」
それを見ていられなかった俺が運転を任せている奴に声をかければ、低い唸り声を上げて車は動き出した。
ミラー越しに後ろを見てみれば、さっきの場所から一歩も動かず俺らの乗っている車を見ている女が見えた。
隣に座っている男も同じようにミラーを見ているらしく、眉間に皺が寄ったままだ。
「...お前、名前は?」
俺は少しでもその目線を動かしたくて、話しかけた。
「はっ、やっと本性見せてくれる気になったんだ?
俺の名前は瀬崎葵」
「...俺は寺島拓哉だ。
なんとでも呼べばいい」
俺の言葉にやっと横に視線をずらした葵に、本性が知られたとか、どうでもいいくらいに胸が軽くなった。