蜜は甘いとは限らない。【完】
ギラギラと光る目を見れなくなった俺は、スモークのかかった窓から外を眺めるようにして逃げる。
窓の外では星や月が見えないほど曇った空から、雫が零れ落ちる。
...あの女は、濡れていないだろうか。
何も言えなくなった俺のせいで静かになった車内で、葵が笑った。
「愛してみろよ」
「?」
笑って言った葵に目をやると、また余裕綽々に笑って言った。
「姉貴をちゃんと見て、姉貴のことを知って。
姉貴のことだけを愛してみろよ」
「は?愛?」
「あんた、1人の女だけを愛したことがないだろ?」
...こいつは。
意味有りげに微笑むこいつは愛したことがあるのだろうか。
顔と、地位。金にしか目がない女を。
昔から遊びの女しか居ない俺は女なんて愛したことがない。
愛という意味を知らないわけじゃない。
ただ、分からない。
胸を焦がす想い?
なんで焦げてんだ?
病気か?
って、昔ダチに言ったことしか覚えてない。