蜜は甘いとは限らない。【完】
「姉貴だけを愛せるって言えるのなら、近付いてもいい」
「...お前、どれだけ上から目線で言ってるつもりだ」
「当たり前、俺の大事な家族だし」
姉貴だけが、俺の唯一の理解者だし。
影でボソッと呟いた葵の声が聞こえた。
...少し、問題のある姉弟か...。
葵から目を逸らしてもう一度見た外は、雨で何も見えなかった。
_____...次の日。
昨日言っていた場所に昨日と同じ時間に行くと、女がもう既にそこに立っていた。
「あ、どうも」
「すいません、遅れてしまって」
「いえ、それで話は?」
「...。」
「あの?」
昨日の雨とは一転して晴れた夜空を、一度見上げてから口を開いた。
「初めまして、寺島拓哉です。
今日は貴方を攫いに来ました」
...俺がずっと考えてたこと。
きっと家には来てくれないだろうこの女を攫うこと。
この時からずっと、この女のことばかりを考えていると、なぜかこの結論に達した。
逃げるのならば、捕まえておけばいい。
俺の言葉に開くとこ全てを開ききった女に、精一杯の笑顔を向ける。