蜜は甘いとは限らない。【完】
「さ、車に乗って」
「...。」
唖然とする女の背中を押して、無理矢理車に乗せる。
...よし。
車にすんなり乗った女に満足した俺は小さくガッツポーズをつくる。
「おい、行け」
「分かりました」
「え、ちょっと!!?」
車が進み始めてからやっと意識が戻ったらしい女が喚き始めた。
うるさいと言う前に、苦しい。
俺のシャツの襟を掴み上下に振り回すこの女を思いっきり殴りそうになるのを、必死に我慢した。
「落ち着け、馬鹿」
「馬鹿?!あたしにはちゃんと名前が...」
「名前、知らねぇ」
「...あんた、やっぱり猫かぶってたのね。
はぁ、あたしは瀬崎舞弥。葵は無事なの?」
「うるせえ。
心配しなくても、無事だ」
少し手荒に握ったままの手を無理矢理解き、襟を直す。
あぁ、皺になったじゃねぇか。
思わず眉間に皺が寄った俺を据わった目で睨みつける。
...面白い顔。
俺はそんな舞弥を見て笑った。