蜜は甘いとは限らない。【完】
「…なに、笑ってんのよ」
「いや、余裕だなと思って」
「余裕?ざけんじゃないわよ。
冷静になろうとしてんじゃない」
「嘘つけ、こんな状況に慣れてるだろ」
「...。」
それを証明するかのように、強く握って作られた拳はミリも動かない。
関心する。
肝の据わった女は、嫌いじゃない。
そう言いながら舌なめずりをする。
「あんたなんかに好かれても、嬉しくないわよ」
「んや、まだ好きじゃねぇ」
「はぁ?」
「お前を愛せって、お前の大好きな弟に言われた」
「はぁ?!」
もう一度、深く息を吸ってさっきのような笑みを作って言う。
「よろしく、Myハニー?」
「誰がアンタなんかのハニーよ!!」
...これが、俺と舞弥との出逢いだった。
「ほら、野菜も食べるー」
「あ、野菜炒め!もやし!」
「もやし美味しいんだから、たくさん食べなさいよ?」
今ではすっかり馴染んだ舞弥の横顔を見る。
組の奴ともいつの間にか仲がいいし、なんの問題もない。
ただ、
「...意気地なし」
「...るせぇ」
こうやって葵に言われる程進展は、ない。
未だに舞弥には苗字で呼ばれているし、俺自身素直に何かを言うことができない性格だ。
...愛し方というのも分からないいまま。
「ほら、寺島もお酒ばっか飲んでないで。野菜も食べな!」
ドンっと荒々しく置かれた取り皿には、雑に盛られたさっきの野菜炒め。
ふと見上げた舞弥に微笑まれた俺は、今はまだこのままでもいいか。
...なんて、思ってしまった。