蜜は甘いとは限らない。【完】
呼出
舞弥side
「本当、申し訳ございませんでしたっ」
...あたしが今、こんなに頭を下げているのには理由がある。
いや、理由がないのに頭を下げることはないのだけれど。
とまぁこうなった、数時間前______...
「え、葵が?」
珍しくいつも会社からか葵、どちらからかしか鳴らないケータイが仕事中に震えたと思えば、同じく仕事中だろう寺島からだった。
『あぁ、だから学校に行かなきゃいけないんだが...』
「いいよ、あたしが行く」
『...悪い、頼んだ』
あのいつも偉そうにして頭を下げない寺島があたしに(電話越しに)頭を下げてきた。
...明日槍でも降るのかしら。
電話の内容は、葵が学校で暴れたということだった。
...毎日のことなんだけど、今回は相手をいつもより殴りすぎて、病院送りにしてしまったらしい。
相手の意識はまだ戻っていないらしい。
「...はぁ」
「瀬崎ー、幸せが逃げるぞ?
あとほれ、仕事」
「すいません、今日は早く上がらせてもらってもいいですか?」
「ん?弟か?」
「はい」
「分かった。
ならこれは希に回すわ」
「ありがとうございます」
頑張ってこいよー。
先輩の声を最後に、すでに会社を出る準備が出来ていたあたしは鞄を持って走った。
そのまま会社の外に停まっているタクシーに転がるように乗り込み、行き先を言う。