蜜は甘いとは限らない。【完】




「あいよー」





ノロノロした運転手のおじいさんの声と共に動き出したタクシーに一先安心して、外に目をやる。

...寒い。





そろそろ雪の降るこの季節。
かじかんだ手を温めるように息を吹きかける。





(めんどくさいなぁ...)




はぁ、とため息を吐き出す。

実を言うと、呼出されるのはこれで3回目。
1回目、2回目も同じ理由で、何回先生や相手の親に頭を下げたか。





「お嬢さん、着いたよー」

「ありがとう、おつりはいいわ」





なんの物音も立てずに停めまった車のせいで気付かなかったあたしは、運転手の声で停まったことに気付いて、手に握っていたお金を渡す。




それを嬉しそうに受け取ったおじいさんに軽く頭を下げて降りると、とっととタクシーはいなくなった。

...まぁいいけれど。




“第一皇明高校”




葵の通っている学校。
この街で、ていうか県内で一番の不良校。


そしてあたしの母校でもあるここは、あたしの知人が校長をしている。




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