蜜は甘いとは限らない。【完】
あぁ、寒い。
スーツの上にコートも着ていない、マフラーも巻いていない、手袋も付けていないあたしは流石に寒さに震えた。
...可笑しいな、葵も制服しか着てないはずなんだけど。震えてない。
しかもカーディガン着てきてないし。
寒さを感じない…わけはないか。
「大丈夫?姉貴」
すっごく震えてるけど。
はははっと笑う我が弟はどうやらあたしに殺されたいらしい。
「...大丈夫、よ。
取りあえず早く中に入ろ」
「うん」
葵に腹が立つよりもまず自分の体を温めるのが第一のあたしは、葵にバイクをちゃんと駐輪所に停めさせる。
ほんと、姉貴面白い。
足早に病院を目指すあたしの後ろで葵が笑ってるのに気付いてるけど、今は無視。
やっと入れた病院内は、暖かかった。
...はぁ、暖かい。
暖房が効いた病院内にいると、すっかり冷えた指先に染み込むように感覚がなかったところが、じくじくと膿んだように痛んだ。