蜜は甘いとは限らない。【完】
...知らない間に、俺の周りには人は居なくて、俺の足元には赤に塗(まみ)れた人
少し痙攣しているところを見ると、さっきまで殴り合い、というか一方的に殴っていた相手だろう。
...また、やってしまったのか。
ふと視線を自分の手元にやると滴るほどの赤に塗れていた。
「...汚い」
汚い、きたない、キタナイ
これじゃ、姉貴には触れない。
すぐ側のトイレに向かい、水道で洗い流す。
石鹸も使って洗うが、鼻につく鉄の匂いだけは消えなくて、何度も何度も擦り洗う。
冬なだけあって、水の冷たさで手が真っ赤になり感覚がなくなるが、それでも俺は洗い続けた。
「...キタナイ」
洗って、綺麗になったはずの手をもう一度見る。
冷たい水のせいで赤く腫れ上がった自分の手。
だけど、その赤は血に見えてしまった。
...こんな手なんて、なくなればいいのに。
そう思うと、必ず俺は思い出す。
昔から、姉貴に言われ続けたあの言葉を。