蜜は甘いとは限らない。【完】



「ご丁寧にどうもー」





それでも、そこで引けないと思ったのは俺のつまらないプライドのせい。



堂々とその作られた道を歩いているつもりの俺は、震えていないだろうか。


...周りの反応からして、震えていることはなさそうだけど。




真ん中にたどり着いた俺は笑みを作る。

だって、それがお前らの描いた瀬崎葵だろ?


殴った相手を見ても笑う、冷酷な男。





「どーも、先生。
女顔、大丈夫だった?」





だったらちゃんと演じてやるよ、お前らの望むとおり。

ニヤリと笑う俺を見た奴から、小さく悲鳴が聞こえた。





「...葵、お前何がしたいんだよ」

「あ、稀浬さんじゃないですかー。
お久しぶり...」




バキっ




「...ははっ、痛いじゃないっスか」

「...お前には、呆れるよ」





笑うことしか出来ない俺の頬に拳をめり込んだ稀浬さんに、胸が痛くなった。



ごめんな、稀浬さん。
これが俺なんだよ。



どうしようもない姉貴にしか、本音を言えない弱虫が、俺なんだよ。





「...俺、ちょっとお茶買ってきまーす」

「...。」





何も言えなくなった俺はその場から抜け出すように踵を返した。



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