蜜は甘いとは限らない。【完】
曖昧
舞弥side
なるべく物音を立てないように閉めたドアを一度じっと見た後、後ろにいる葵に振り返る。
「...帰ろっか、寺島のところに」
「...うん」
何もしてないはずなのに疲れたあたしは、らしくもなく葵の手を握って歩き始める。
「っ、」
「?葵?」
「...何もないよ」
ぎゅっと力を入れて握った葵の手はいつも通り冷たくて、でもどこか温かみを感じる手。
だけど、あたしが握った瞬間。
ほんの少し力が入った気がしたのは、あたしの気のせいだろうか。
「...それじゃ、ここで待っててね」
「うん」
だけどそんなことは直ぐに気にならなくなって、あたしたちは駐輪所の前で手を解いた。
...というか、解かれた。
寒い、さっきまで手繋いで温かったのに。
まだほんのり温い手を冷えないうちにポケットに入れる。
「...そんなことしても直ぐに冷えるのに」
「いいの」
ポケットに手を入れ、肩を縮めているとバイクに乗った葵があたしの前に停まった。
「あぁー、乗りたくない」
「ははっじゃあどうやって帰るの?」
「...。」
「ほら、俺の制服のポケットに手突っ込んで乗っていいから」
早く。
弟のくせに妹をあやすように言いながらあたしにメットを被せる。
パチンと留めてしっかりメットを被ったあたしは、今度は葵の腰に腕を回して乗る。