蜜は甘いとは限らない。【完】




「止めたって無駄だとは、決まってないだろ」

「無駄なんですよ、分かってるんです」

「なんでそんな言い方をする?!
大事な奴なんだろ?友達なんだって笑って言ってただろ?!」

「仕方ないんですよ!!」





ガンッ



体調が悪い奴が側にいるのに、感情が昂った俺は側にある机を殴る。



仕方、ないんだ。




「いつも、いつも。止めてましたよ。
でも笑うんですよ、」




“あたしは倒れたって、何度でも起き上がれる。心配しないで。”って




「笑う?」





複雑に歪んだ郷下先輩の顔は、あの頃の俺の顔をそのまま映したよう。


...あの言葉を聞いたのも、これぐらいの季節だった。



いつも一緒にいる俺は言ったんだ。
今みたいに顔色が悪い舞弥に。




「...笑って、大丈夫だって言って。
フラフラして、大丈夫じゃなさそうなのに」

「それなら、止めれるかもしれないだろ」

「それは、舞弥の顔を見ても言えますか?」





今は綺麗に閉じられたあの目に捕われてから、俺はこいつの側にずっといて、舞弥のことも分かっているつもりだった。


だけど、あんな、顔。目は知らない。



まるで別人のようだったあの舞弥の目を見ると、何も言えなくなる。




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