蜜は甘いとは限らない。【完】
「弟さんなんですね!
あ、私は瀬崎さんと同じ職場で働いているんですよ」
「どこにいるか教えてもらってもいい?」
「はい。
ここの5階です」
「ありがとう」
これ以上俺が話しても邪魔になるだけだと分かっているかのように、俺に目で喋るなと言うと、場所を聞き出した。
...まぁ、場所が分かったからよしとしよう。
「...行くぞ」
「これで行かなかったらなんのためにここに来てるわけ?」
「うっせ!」
早歩きで社内にはいり、勝手にエレベーターに乗り込む。
「...これって許可取らなくていいわけ」
「知るか、んなもん」
「はぁ...」
いちいち溜め息吐くんじゃねぇよ。
小刻みに組んだ腕を指で叩く。
ポーン...
目的の階に着いたことを知らせる音と共に開いたドアをくぐると、スーツを着崩している男が歩いてきた。
...こいつにも聞いておくか。
「おい、瀬崎舞弥はどこだ」
「あ?なんだお前ら」
「すいません。
瀬崎舞弥の弟です。
姉はどこにいますか?」
「は、弟?」
掴みかかるように聞いた俺に怪訝そうな顔をするこの男は、どうやら舞弥のことを知ってそうだ。
俺を押しのけて聞いた葵にこの時は少し感謝した。