蜜は甘いとは限らない。【完】




何も言わない男の胸ぐらを離す。



離して舞弥にもう一度目線を戻すと、頬には涙の跡だけが残っていた。





「ねぇ、なんでって聞いてるだろ?
答えろよ」

「…俺が、泣かせたんじゃない」

「じゃあ、なんで」





さっきまで自分の頭の中は沸騰するように熱かったのに、葵の怒鳴っている様子を見ているとなぜか頭が冷えて落ち着いてきた。




…このまま怒鳴ってても、意味がない。





「…葵、一旦落ち着け」

「なんであんたは落ち着いてんの?
姉貴泣かされたかもしれないのに」

「違う。話、ちゃんと聞くぞ」

「…チッ」





興奮したままの葵の肩に手を乗せる。

ついさっきの俺みたく、大きく舌打ちをすると落ち着いたのか静かになった。




…よし。




「こうなった訳を、教えてくれ」

「…葵、くんになら話す」

「は?」




初めよりかは優しめに言った俺は眉を潜め、目の前の男を見る。




「…なんで、俺の名前知ってる」

「…俺は舞弥の、高校からのダチだ。
話はある程度聞いている」

「…ふーん、分かった」




…いや、ちょっと待て。


俺を置いたまま続いていく会話についていけなくなる。



「…俺には、してくれないのか」

「しない」




きっぱりダメだと言われた。




「…葵、後で俺にも教えろよ」

「嫌だ」




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