蜜は甘いとは限らない。【完】
必死の形相で俺の胸ぐらを掴むこいつに目をやる。
...これ、ちょっとやばいか?
「...なにも、してない」
出しにくい声を無理矢理出すけど、相手には聞こえたのだろうか。
「ならなんで、姉貴は泣いてんの?」
...どうやら、聞こえてたらしい。
胸ぐらを掴まれたままの俺に殴りかかるような勢いで舞弥の弟。葵くんが聞く。
「...。」
「ねぇ、なんでって聞いてるだろ?
答えろよ」
苦しくて、何も話せない俺にもう一度聞くと、男がやっと俺の胸ぐらを離してくれた。
あぁ、苦しかった。
咳をしたい気持ちを抑える。
「...俺が、泣かせたんじゃない」
「じゃあ、なんで」
やっと出せた自分の普通の声に、葵くんが間髪いれず答える。
...俺じゃない。
これしか言えない自分に腹が立つ。
「...葵、一旦落ち着け」