蜜は甘いとは限らない。【完】




必死の形相で俺の胸ぐらを掴むこいつに目をやる。

...これ、ちょっとやばいか?





「...なにも、してない」





出しにくい声を無理矢理出すけど、相手には聞こえたのだろうか。





「ならなんで、姉貴は泣いてんの?」





...どうやら、聞こえてたらしい。


胸ぐらを掴まれたままの俺に殴りかかるような勢いで舞弥の弟。葵くんが聞く。





「...。」

「ねぇ、なんでって聞いてるだろ?
答えろよ」





苦しくて、何も話せない俺にもう一度聞くと、男がやっと俺の胸ぐらを離してくれた。

あぁ、苦しかった。




咳をしたい気持ちを抑える。




「...俺が、泣かせたんじゃない」

「じゃあ、なんで」




やっと出せた自分の普通の声に、葵くんが間髪いれず答える。


...俺じゃない。



これしか言えない自分に腹が立つ。





「...葵、一旦落ち着け」




< 78 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop