蜜は甘いとは限らない。【完】
「…そういえばわざわざ、運んでくれたんだね。“葵”」
「…いいよ、別に。それくらい」
「おい、待て」
……。
「それでも、助かった」
「…そっか」
「 おい、ふざけんなよ」
…五月蝿い。
葵、と固定してお礼を言ったあたしがそんなに不満か。
般若みたく眉間に皺寄せて、馬鹿みたい。
「…二度と運んでやらねぇ」
「ご心配なさらずに。
もう二度と倒れないから」
「どうだか?」
「あ、そうだ葵ー」
「チッ」
また舌打ち。
眠たいのかウトウトと首を傾ける葵に逃げるように声をかけたあたしに、盛大な舌打ち。
その舌切ってやろうかしら。
一応寝起きのあたしは、低血圧が酷くてイライラしながら寺島を睨む。
「なに?姉貴」
そんなあたしに舌っ足らずな声を出す葵に、少しときめく。
…可愛い。
「…ううん。
また今度でいいや」
「…そう?
なら、俺は寝るね」