俺と無表情女の多表情恋愛
「……ごめん」
桃太郎とその子供たちと戯れていた俺は、声に反応して桐生の方を向く。
迷惑をかけてしまったと思っているらしく、どことなく落ち込んでいるように見えた。
「………そういえば、こいつらにも名前つけなきゃな」
膝の上に乗っている子猫たちを指さす。
「一応つけたけど……」
言いたくなさそうに口ごもっている桐生を見る。
いったいどんな名前をつけたんだ。
気になってつい目を合わせると、バツが悪そうに目をそらされた。
「…一郎」
「おう」
こいつかな、と一郎と呼ばれた(らしき)子猫を撫でる。
「次郎、三郎、四朗と…」
「ちょ、ちょっと待て」
つらつらと出てきた名前に撫でている手を止めた。
子猫は全部で5匹。そのうち雄は3匹のはず。
今あいつ、四朗って言わなかったか…?
「最後に五郎」
近づいてきた桐生がそう言って抱き上げたのは、俺が一郎だと思って撫でていた子猫。
考えてることが全くわからない。
それでも桐生の中ではしっかりと名前と子猫が一致しているらしく、一匹一匹の名前を呼んで頭を撫でていた。
それを気持ちよさそうに甘受する子猫たち。
……こいつらがいいならそれでいっか。
心なしか口角が上がっている(ように見える)桐生を見て、自分の口角も上がった気がした。