俺と無表情女の多表情恋愛
「じゃあ、もうそろそろ帰るわ」
持ってきていた鞄を肩にかける。
窓の外はもう真っ暗で、さすがに居座りすぎたなと反省した。
「うん。迷惑かけたね、ごめん」
まだ落ち込んでんのか。
俯き気味の桐生の額を軽く小突くと、桐生の顔は自然と正面を向いた。
「そういう時は、ありがとう、だろ?」
「…………あ、りがとう」
たどたどしかったその言葉には、若干の照れが混じっているように感じる。
恥ずかしそうに見えた桐生に伸びそうになった手を、俺はぐっと留めた。
マンションの外に出て、少し冷たい空気を吸った俺はついしゃがみこむ。
さっきっから何してんだ。
動揺がばれないように接していたのに、最後にボロを出すところだった。
さすがに寝てる間にキスしただなんて、桐生に言えない。
言ったとしても、きっと傷つけるだけだろう。
体が先に動いて気付くとか、ただの馬鹿だ。
「これからどーするかなぁ…」
漏らした声は誰に聞かれるもなく、すぐさま消えていった。