俺と無表情女の多表情恋愛


「じゃあ、もうそろそろ帰るわ」


持ってきていた鞄を肩にかける。
窓の外はもう真っ暗で、さすがに居座りすぎたなと反省した。


「うん。迷惑かけたね、ごめん」


まだ落ち込んでんのか。

俯き気味の桐生の額を軽く小突くと、桐生の顔は自然と正面を向いた。



「そういう時は、ありがとう、だろ?」


「…………あ、りがとう」


たどたどしかったその言葉には、若干の照れが混じっているように感じる。

恥ずかしそうに見えた桐生に伸びそうになった手を、俺はぐっと留めた。












マンションの外に出て、少し冷たい空気を吸った俺はついしゃがみこむ。

さっきっから何してんだ。


動揺がばれないように接していたのに、最後にボロを出すところだった。

さすがに寝てる間にキスしただなんて、桐生に言えない。
言ったとしても、きっと傷つけるだけだろう。


体が先に動いて気付くとか、ただの馬鹿だ。


「これからどーするかなぁ…」



漏らした声は誰に聞かれるもなく、すぐさま消えていった。





< 12 / 23 >

この作品をシェア

pagetop