俺と無表情女の多表情恋愛
┗を意識してしまうとき
あの一件以来、桐生のことが分からなくなった(元々そんな分かってた訳じゃないけれども)
例えば、昨日のことを思い返してみる。
まず、朝から変だった。
「おはよう」
「っ!?お、おはよー」
まず、桐生から挨拶されたこと。
いつもは俺が行ってるのに、最近は桐生から挨拶しに来てくれてたりする。
さらには休み時間も変だった。
授業中寝てた俺のノートは当然真っ白。
これは友達に借りるしかねーな、と思っていると、すっと机の上にノートが差し出された。
表紙には、古典 桐生葉乃 と書かれていた。
まさかと思って顔を上げれば、差出人は当然桐生なわけで。
「ありがとう」
「別に」
無表情で自分の席に戻っていった桐生の後ろ姿に妙な違和感を感じていた。
帰りも、いつもなら俺が桃太郎たちの所に行くと言うと多少嫌がる素振りを見せるのに(たぶんまだ妬いてるんだろう)、昨日は桐生の方から「行くの?」だなんて聞かれる始末。
ほんといったい何があったんだ。
この前プリントを届けに行った以来だから、なおのこと心臓に悪い。
急に近づいた距離に、どのぐらいの距離を保てば良いか分からなくなってしまった。