俺と無表情女の多表情恋愛
「おはよう」
「おう、おはよ」
最近じゃ恒例と化している、朝の挨拶をしてから席に着く桐生に目をやる。
その光景を見ていたらしい浜子(本名は浜田誠)がニヤニヤした様子で近づいてきた。
「朝からやりますねー、槙島さん」
「………うるせーよ」
「俺も桐生さんとお近づきになってみたいわー」
何故かおねえ口調で体をくねらせている浜子にどん引く。
浜子はそのままするすると進むと、桐生の席の前で止まった。
「桐生さん、おはよう!」
「………おはよう」
そしてあろうことか桐生に挨拶をしていた。
対する桐生は、今までにないぐらいめんどくさそうにしている。ほんと分かりやすいぞ桐生。
それでも色々話しかけている浜子からそろそろ助けてやろうかと俺も席を立った。
「浜子、それぐらいにしとけ」
「え?なんで?まだ話し始めたばっかなのに」
「……桐生がめんどくさいってさ」
「っ!」
その瞬間、桐生は俺の方を勢いよく見てきた。
「えー?そんなことないよねー、桐生さん!」
「だから、それがめんどくさいんだっつーの。いい加減席戻るぞ」
どうすれば良いか分からなくて、すぐに目をそらすと浜子を連れて席に戻る。
なんであんな驚いたみたいに…。
朝のHRが始まっても考えるのは桐生のこと。気付いたらもう先生はいなくて、浜子に急かされるまま、次の授業のために教室を移動した。