俺と無表情女の多表情恋愛
「じゃあ、明後日駅前で」
先生に押し付けられた後、桐生と2人でいつ買い物に行くかっていう話になり、俺の部活を考慮して次の日曜日になった。
12時駅前に待ち合わせ。
なんだかデートみたいだな、だなんて思ってしまったら最後。土曜日の部活なんて集中しきれなくて怒られるわ、浜子たちには何があったのかって責め立てられるわで散々だった。
だから、先に言い訳をさせて欲しい。
土曜日は疲れていたんだ。
「准兄、電話だよ」
妹の雪に起こされ、受話器を渡される。
そして、その声を聞いて俺はすぐさまベッドの上で正座の体勢にならずにはいられなかった。
「……遅い」
「っ!ごめん寝坊した!」
急いで時計を確認すると、短針と長針が重なり、共に1時を指している。
1時間以上の寝坊なんて初めてだ。
しかもそれがよりによって桐生と約束したときだなんて。
「すぐ行くから!」と告げて電話を切り、急いで身支度を整える。
普段では考えられないような早さで準備を終えると、すぐさま桐生の元へ走っていった。
「ご、ごめん………」
「別に大丈夫」
息を切らして膝に手を置きながら謝る。
1時間以上も遅れてきたのに怒るとかもしないで、ただいつもみたいに無表情を貫き通す桐生に、少しだけ違和感を覚えた。
その後は桐生を筆頭に、先生に頼まれた物資を買い集める。
ホームセンターから100均まで色々巡った俺たちは、休憩と遅刻したお詫びも兼ねてある喫茶店に入っていた。
「ほんと、何でも食べて良いから」
財布が空になるのを覚悟でそう言う。
「…いいの?」
そう聞いてきた桐生は明らかに嬉しそうに見えた。
とりあえず、朝から何も食べてないからがっつりとパスタでも食おうかな。
決めた俺は顔を上げて桐生を見る。
メニューを広げたままぴくりとも動かなかった桐生は、少ししてようやく顔を上げた。
「決まった?」
「うん」
一応確認をして、店員を呼ぶ。
「すみませーん。カルボナーラ1つ」
「……苺のショートケーキと苺のパルフェ、それから濃厚苺のジュースを1つずつください」
数ある中から苺の商品(しかも甘いものばっか)を選択して頼んだ桐生。
容赦ないなと自分の財布を思い浮かべながらも、すぐに運ばれてきたデザートを美味しそうに食べている桐生を見て自然と俺も頬が緩んでいた。