俺と無表情女の多表情恋愛
┗にバレていたとき
「勝つぞ~~~~~!!」
「お、おう」
やる気満々な浜子を見て分かるように、今日はついに体育祭の日だ。
あの買い物以来、色々大変だった。
先生には(良い鴨だと)目をつけられ、嫌と言う間もなく雑用を頼まれる。
そのおかげでよく部活を遅刻しがちになって、同期には桐生と2人っきりだって冷やかされる毎日。
そんな毎日も今日で解放っ…!
とかって思うと、体育祭が楽しくてしょうがなかった。
まぁ、浜子のテンションには着いていけないのだけれど。
「そーいえば、桐生は何出んだっけ?」
1人クラスの輪から外れてぼーっとしている桐生に近づく。
「借り物競争と、リレー」
「リレーって、え、桐生足早いの?」
女子のリレーは、だいたい足に自信のある運動部系が選手になる。
でも、桐生って確か帰宅組だよな?
「選ばれたから、走るだけ」
淡々と述べた桐生だったけど、リレー選手のつける鉢巻きをポケットから出した桐生は、あからさまにやる気に満ちていた。
いつも降ろしている髪を一つに束ねて上で結う。
隣から香ったシャンプーの匂いと、髪をかき分けてうなじが見えるその仕草にどこか見てはいけない気がして視線を宙に漂わせる。
けど、少ししても動く気配のない桐生。
どうしたのかと目を向ければ、つい笑みをこぼしてしまった。
「…おまっ、つけられないなら最初からそう言えって」
「…別につけられるし」
リレー用の鉢巻きを不器用につけようとしては失敗してむくれている桐生に、つい笑ってしまう。
しょうがないなぁ、と俺は鉢巻きを奪い取った。
「おとなしくしてろよ」
「………うん」
桐生の後ろに回り、額に鉢巻きを巻いてやる。
そのときに触れた髪は柔らかくて、興味本意でポニーテールに指を通してみれば、ひっかかることなくスッと指が通り抜けた。