俺と無表情女の多表情恋愛
「今日も桃太郎のとこ行くのか?」
放課後教科書を鞄にしまっている桐生に尋ねる。
今日は部活もないから、行くならついて行こうと思ったからだ。
あれ以来、俺は教室でちょくちょく桐生に話しかけている。
他の奴らには相当驚かれたが特に何を言われるわけでもなく、ただ俺の行動を訝しげに眺めている、といったところだ。
あの時ほどわかりやすい反応はみられなったけど、桃太郎の話になると心なしか雰囲気が柔らかくなる気がする。
少しずつ桐生の新しい一面を知ることが面白くて、最近はどうすれば桐生のポーカーフェイスを崩せるかってことばっか考えているなーとふと思った。
「行くけど…来るの?」
あ、これ不服そうな顔だ。
来るな、という含みのある言葉に桐生の方がそこらへんの奴らよりよっぽど素直だよな、と思う。
まぁ、来るなって言われても行きますけど。
楽しいし。
嫌そうなことに気づかないふりをして肯定する。
「そう」と一言返した桐生は嫌がってるだなんて感じさせないほどあっさりとしていた。
「桃太郎の腹、だいぶでかくなってたなー」
「…そうね」
「もうすぐ生まれるんだろうな」
「…そうね」
「桃太郎の子だから、きっとどの子猫も桐生好みの猫だろうな」
「…そうね」
「そうね」としか返さない桐生だが、だんだん「そうね」の声が気持ち高くなっている。
やっぱ楽しみなんだろうなと素直じゃない桐生ににやついてしまう。
そんなに感情を隠そうとしてもわかる人にはわかるんだからな。
にやにやしている俺を怪訝そうに見る桐生に「おまえのせいだ」と言うと明らかにこちらをにらんでいた。
……そんなわかりやすかったら無表情女にはなれないぞ、桐生。
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