俺と無表情女の多表情恋愛



そんなこんなで桐生と一緒に桃太郎を見に行ってから1か月。
大会が近いせいで平日は毎日練習が入り休みなしで、部活後も疲れ切ってしまってまっすぐ帰宅する…という生活になってしまっている。
そのため桃太郎のもとに全然顔を出しにいけなくなっていた。


桐生にはいつも通り話をふりに行くも、ただでさえ見分けるのが難しい桐生の表情や気持ちの変化をこんな疲れた状態で見分けるのはなおさら難しいわけで。
話すのは楽しいけれど、そういった意味で疲れるということから普段より話かけに行ってないことは明白だった。



そんな中、約1か月ぶりの平日の休み。
予定にはなかった急な休みに盛りあがった部員たちに連れられ、放課後ご飯を食べに行くことになった。

ぞろぞろとクラスの部員のやつらと教室を出る。
そのとき俺の頭の中には桐生のことなんてちっとも入っておらず、今から向かう焼肉のことで頭がいっぱいだった。




ゲーセン行ったり、食べ歩いたり、買い物したり、久しぶりの放課後を満喫する。
そういえば桐生と初めて話したあの日以来、平日の休みの日は桃太郎のとこ行ってたな…なんてふと思い出すと急に桃太郎のことが気になり始めた。
あんな図体でも一応メス猫であり、母親猫なのだ。


時計を確認して、予約時間までまだ余裕があることを確認すると一言残し、校舎裏へと向かった。

校舎裏につくと、今ではもう見慣れた背中が見える。
その後ろ姿に安心して声をかける。そして一瞬のことでわけもわからないうちに尻餅をついていた。



「え、ちょっと」

自分が押し倒されたとわかったのは少し間をおいてから。
そして、押し倒してきたのが桐生だとわかるまでにはかなりの時間がかかった。


いや、そこまでの状況把握はまだいいとしても。
問題はなんであの桐生が俺の飛びついてきたのか、だ。

とりあえず未だに俺の上に抱きつくように乗っている桐生にどいてもらおうと肩をつかむ。
でもその肩は小刻みに震えていて、顔をあげた桐生の顔は泣くのを我慢しているような、無表情とは程遠い顔をしていた。








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