無口な上司の甘い罠
たくさんの社員がいるにもかかわらず、

部長のネクタイを直す美人。

「…ありがとう、峰子さん」

通り過ぎる私の耳に、優しい部長の声が聞こえた。


…横を私が通り過ぎている事を、部長は気づいていないようだった。


…取引先への仕事が終わり、帰ろうとビルを出ると、

隆盛が私の手首を掴んだ。

「飲みに行くか」

「エ?・・・何言ってるの?会社に戻らなきゃ」


私は困惑の表情で隆盛を見た。


「黒板に直帰するって書いてあるから大丈夫だよ」

「…そんなこと書いてない」


「今日子は書いてないよ、オレも」

「・・・・」


「さっき、電話してそう書いてもらうよう頼んだんだ。

ほら、行くぞ」


「エ、ちょっと、隆盛?!」

半ば強引に、私を居酒屋に連れ出した隆盛。

…分かってるよ、元気がない私を元気づけようと思ってしてくれてるってこと。
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