無口な上司の甘い罠
振り返った私の目に映ったのは、峰子さんだった。

「・・・何を言い出すんですか、突然」

私は困惑の表情で、峰子を見上げた。


峰子は何を言うでもなく、部長が座るはずの席に座った。


「・・・あの」

そこに座らないで。そこは、部長が座る席なんだから。


「待ってても、瀬名君は来ない」

「…これないなら、連絡くらいしてきてくれます」


「仕事でトラブッタの。瀬名君はそこへ直行、

私は頼まれて、行く途中にここに寄った」


「…そんな事」

あるわけない。

それならきっと、絶対連絡をくれるもの、部長は。

この人のウソだ、きっと。


「…それから、その指輪返して」

「なっ?!」

突然立ち上がった峰子は私の所まで来ると、右手の婚約指輪を奪った。

…必死に抵抗したが、峰子の方が上手だった。


「これ、私のなの」
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