無口な上司の甘い罠
…無情にも、大粒の雨が降り出した。

…一瞬にして私はびしょ濡れ。

ありえないこの状況に、頭の中は真っ白になっていた。



「おい、そんな所で何やってんだよ」

その声と同時に、私はゆっくりと立たされた。

見上げると、私の目の前に、隆盛の顔が。



「隆盛・・・」

「サッサと乗れ、風邪ひくぞ」

「・・・」

「仕事帰りにたまたまオレが通りかかったからよかったものの・・・」


そこまで言って、隆盛は言葉を失った。

…助手席で声も出さず、無表情のまま、私は泣いていた。


隆盛は言葉が見つからず、黙ったまま、車を出した。


…それと入れ違いに、タクシーが一台。


…不運にも、その後部座席には、宮本瀬名が乗っていた。
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