無口な上司の甘い罠
…駅に着き、思わずため息をつく。

やっとこの空気から抜け出せる。


「今日はありがとうございました」

「・・・坂口」


「なんですか?」

私の顔を真っ直ぐに見つめ、でも何も言わない宮本部長。

・・・言いたい事があるなら、早く言ってほしい。


「お前の事、本気だって言った言葉、忘れるな」

「・・・え、だってあれは」


未だに本気に出来ていない私は、口ごもる。


「さっさと帰って寝ろ」

「…なんなんですか」

シッシと、手をやられ、全くと、不機嫌な顔になった私は、

駅の方へと降りて行った。



…私に本気?


…いや、やっぱ嘘でしょ?


家に帰っても、そんな事ばかり考える自分がいた。


本気に出来ないのは、長い事、恋を休み過ぎたせいかもしれない。
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