無口な上司の甘い罠
…やっと離れた唇が、まだ欲しいとどこかで思ってしまう。

「…まだキス足りない?」

私の耳に囁いた瀬名に。

必至に首を振って見せた。

瀬名は、またクスッと笑って・・・


「今日子は嘘つきだな…本当は欲しいくせに」

本音を言われ、顔を真っ赤にしてしまった。

瀬名はSな性格なもかもしれない。

・・・そして私はMかもしれない。…だって、恥ずかしくても、

嫌だと思わないから。


「…ところでそれ、何?」

切りかけのトマトを指差した瀬名。

私はやっと普通の会話になったことに安堵しながら、

それに応えた。


「昨日、何も食べてなかったし、起きたらきっと、

お腹ペコペコかなと思って・・・」

そう呟くと、瀬名はコクリと頷いた。


「確かに、腹は減ったな」

そう言って笑う瀬名に、私もちょっと笑って頷いた。


「これ、あっちに運べばいい?」

瀬名の言葉に頷く。

一緒にテーブルに並べたご飯を、一緒に食べる。
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