きみのそばに
こうして一緒に歩いている今も、隣の彼を全身で意識してしまって、緊張して仕方がない。
気の利いた話のひとつでもできればいいのに、時折口を開く彼に短い相槌を打つことしかできない。
せっかく、ひさしぶりに彼の隣を歩いてるのに。
それほど意味のある会話もしないままに、私たちの家の近所の大きな交差点にさしかかる。
夜遅い今の時間帯は車通りが少ないが、昼間はわりと交通量の多い交差点。
その横断歩道を、子どもの頃はよく彼と手をつないで渡った。
そのことを懐かしく思いながら、横断歩道の信号を見上げる。
信号は青。
迷うことなく渡ろうとしたとき、彼が言った。
「俺さ、4月から異動で東京行くことになったんだ」
「え?」
彼の言葉に、横断歩道を渡りかけていた私の足が止まる。