その手を離さない
「でもさ、あの子意外とケロッとしてると
思わない?もしかして知ってたとか?」
里美が意味ありげな顔をする。
「あー彼女のこと伊藤が狙ってるっぽいね」
実穂の言葉に北川がムッとした。
「職権乱用でコンプライアンスにチクって
やる!」
伊藤はこの研修の担当責任者。
研修初日に彼女を『環ちゃん』と呼んで馴れ馴れしくしたので、変な噂が立っていたのは事実だ。
だが……
「やっぱりーなんか怪しいよね?」
俺は里美の言葉に首を振った。
「伊藤の事は断ったみたいだぜ」
「「「えっ!!」」」
三人が同時に俺を凝視した。
「なんで翔くん知ってるの?」
「おまえいつの間に環ちゃんと!?」
「そうよ!いつの間に!」
北川は彼女のことを可愛いと言って何かと絡んでいたからその態度はわかるが……
実穂、何故おまえもそんな怖い顔なんだ?
「たまたま彼女が斎藤さんに話してるのを聞
いただけだって」
鼻息荒い二人に詰め寄られて、俺は立ち聞きした事を白状した。
「真優(まゆ)ちゃん、里美には教えてくれな
かったのにいー」
里美が膨らませた頬が、白く細い人差し指に押された。
「私が何を教えなかったの?」
「真優ちゃん!」
いつの間にか斎藤さんが現れて四人は一斉に驚いた。