その手を離さない
「な、何でもないよ」
俺は慌てて斎藤さんに首を振る。
色白でおっとり口調のいかにもお嬢様な斎藤さんの隣には、彼女がいた。
「私達、先に帰るね」
「環ちゃん、大丈夫?」
北川が彼女を見た。
「うん。これから二人で気晴らしするの」
彼女は苦笑いする。
「環も私もありえない部署なんだものね」
「斎藤さん、経理だったよな?」
俺の後に発表された彼女は、びっくりして立ち上がっていた。
「そうよ、簿記の資格なんて取るんじゃなか
ったわ。性能のいい電卓買わないと」
「じゃあ俺たちも仲間に入れて」
「北川くん、企画希望だったじゃない」
彼女が良かったねって出した拳に北川がすまなさそうに拳を当てた。
「里美ちゃんだって海外事業部が希望だった
わよね?」
斎藤さんがそう言うと、彼女が実穂を見た。
「実穂も秘書課で良かったのよね?」
「まあね」
おお?いつの間に実穂は彼女と仲良くなってたんだ?
「じゃあ別にみんな……あっ」
斎藤さんが思い出したように俺を見た。
俺は苦笑いして煙草を揉み消した。
「仲間に入れてもらえるよな?」
俺は二人を……というか、彼女を見上げた。
今、一番分かりあえるのは俺だろう?
「加瀬くんも買い物に行きたいの?」
彼女はあの柔らかい笑顔で俺を見た。
「えっ!」
驚く俺に斎藤さんがクスクス笑いながら教えてくれた。
「ストレス解消といえばショッピング」
ね?って斎藤さんは実穂と里美に同意を求めると、二人が大きく頷いた。
「まあその後飲みに行くかもだけど。
ね?環」
「うん」
「そうなったら電話するから、お暇だったら
ご一緒してね」
「じゃあ」
二人はそう言って喫煙所を出て行った。
「里美も行くー!翔くんも行こ」
「私も秘書らしいスーツ買わないと」
「じゃあ俺らは荷物持ちしますか」
二人に続いて、鞄を取ってくると出て行く北川に俺のも取ってきてくれと頼む。