その手を離さない

「んーー私も誰かにそうして欲しかったから、
 ……かな?」

正直に言ってから、あの日の気持ちが甦ってきた。

私も同じ気持ちだったって。

不満と不安でぐちゃぐちゃになりそうだったあの日の私。

一年たった今だって、不満が消えた訳じゃない


「そっか……
 あの日にしてやれなくて、ごめんな」

よしよしって彼の右手に頭を優しく撫でられて、甦った気持ちが幸せな気持ちに上書きされていく。


「ん?今日は髪もいい匂いがする」

さっき手にしたみたいに、彼は髪をクンクンと嗅ぐ。

「そう?」

ハンドクリームと同じメーカーのシャンプーに変えたからかな。

「ヤバ……完全に誘われた」

「え?」

「ごめん環、メシ後にしよう」

「えっ!ちょっと…翔平!」


繋いだ右手をぎゅっと強く引かれて、駐車場へ走る彼に笑いながらついて行く。




たぶんこの手は一生離れない




Fin


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