黒の瞳
プロローグ:インタビュー
 スポーツ雑誌のフィギュアスケートの担当になってから、五年が過ぎようとしていた頃。私達の部署を揺るがせたのは、上り調子にある選手の、突然の引退宣言だった。

 ずっと芽が出なかった、苦しい学生時代。その頃の彼女のことを、私は活字でしか見たことがない。それでも、持ち前の精神力と表現力、そしてたゆまぬ努力で、ここまでやってきたという。何より彼女は、氷上を舞うのがとても好きだったのだ。

 練習の始めには、リンクに足を踏み入れる前に、必ず氷を優しく撫でる。そして、出る時もそれを怠らない。銀盤と挨拶を交わす彼女のことを、何人もの記者が撮りたがっていた。
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